剣道の立居振舞 ①座り方、立ち方の作法は?
剣道には正座は付きものです。しかし、立っている状態から正座をするときに、ただ結果として正座ができれば良いわけではありません。明確にその作法が決まっています。
1.座り方の作法ってどんなもの?
現在の剣道での座り方・立ち方の作法は「左座右起(さざうき)」と決められています。
全日本剣道連盟の指導要領には、「座るときは左足を一歩引き,そのままの姿勢で左膝を床につけ片膝立になる。次に右膝をつけ,つま先を立てたまま中座にな り,つま先をはずして身体を沈めて座 る。立つときは腰を上げ,つま先立から右足を一歩出して片膝立ちになり,静かに立ち上がり左足を引き付ける。これを「左座右起」の作法という。」とあります。
(1)座り方の手順
具体的な座り方の手順は、以下のようになります。
①まず立った状態で、自分の座る場所を決めます。(足元の十字の印=つま先の位置)
②次に、左足を一歩後ろにひき、左膝をつま先があった位置につきます。
③左膝をついたときの姿勢です。左足つま先は立てておきます。
④次に右足を後方に引き、左足と同じように膝をつきます。
⑤両足つま先を立てたまま、その踵の上に尻が付くまでゆっくりと腰を下ろしていきます。この結果できた姿勢を跪座(きざ)と言います。
⑥跪座から正座に移行していきます。まず右足から静かにねかせていきます。このとき、上体が前かがみとならないように注意します。次に、左足を同様にねかせ、右足の親指の上に左足の親指を重ねていきます。最後に尻を踵の上におろして、正座の姿勢となります。
(2)立ち方の手順
次に立ち方の手順を示します。
①→③まず正座から跪座(きざ)へ移行します。両脚のももに力を入れて尻を少し浮かせ(②)、左足から静かにつま先立っていきます。次に右足のつま先を立てて、跪座となります。この間、上体が前かがみとならないよう注意します。
③ の跪座は、長い正座から立位になる前に、足に血を巡らせるために重要な姿勢となります。即ち、足の指を反らせて筋を伸ばしながら、血流を回復させることで、足が動くようにしていきます。立ち上がったときにふらつくことがないよう、ここで少しためを作るようにして動くと良いでしょう。
④跪座から腰をさらに浮かせます。
⑤正座するときとは逆の順番で、先に右足を立てます。右足のつま先と、左足の膝の位置がおおよそ揃うようにします。
⑥次に左足を立てて、前のめりにならないように注意しながら立ち上がります。
⑦左足を右足の位置に揃え、立位になります。
2.座り方、立ち方は武道で共通なの?
以上説明した座り方、立ち方は柔道、空手、合気道、弓道など、すべての武道で共通かというと、実はそうではありません。また、剣道においても、昔から「左座右起」であったかというと、これもそうではありません。
武家の礼法を代々伝承して いる小笠原流による武家の礼法では、座り方、立ち方の作法は「右座左起」とされています。つまり、現在の剣道で行っている左座右起の作法は、古来からの武家作法とは異なるということです。
日本刀や木刀は、右手に提刀(さげとう)します。これは刀を抜く意志がないことを相手に示すためと言われていますが、このように刀を持つ場合は、右座左起の方が理にかなっており、古来作法では右座左起が優勢であったと考えられます。ちなみに当時の作法では、男性は「右座左起」、女性は「左座右起」と、男女でも異なりました。このように立居振舞の礼法は、その状況や流儀等によりさまざまでした。
礼法の統一問題が最初に持ち上がったのは明治38 年のことで、そこで問題となったのは、女生徒の立ち姿においてつま先を開く体操と、つま先を閉じる作法との調和であったとの記録があります。この体操と作法との調和問題がきっかけとなって、学校における礼法全般の見直しが始まり、女性の左座右起の作法が採用されました。このことが後に男子の座作進退や武道の礼法にも影響し、右座左起から左座右起へと一本化されていったと言われています。剣道においては、現在の作法である竹刀の左提刀(防具着装時の竹刀の取り回しを考え、略式作法として普及したと言われています)には、左座右起の作法の方が理にかなっていたことも、作法統一促進の理由のひとつになったと思われます。
ちなみに講道館柔道でも、嘉納治五郎氏の時代は右座左起でした。これが昭和18年、左座右起へ改正されています。
一方合気道においては、合気会本部が発行している合気道教本で、現在でも「右座左起」を指導しています。弓道も右座左起が作法になっています。空手では、流派によってさまざまのようです。