剣道の立居振舞 ②礼のしかたは?
剣道は、礼に始まり礼に終わると言われます。その礼のしかたにも、きちんと作法があります。
剣道における礼には、立礼2種類と座礼の、計3通りの礼のしかたがあります。
1.礼ってそもそも誰に対するもの?
まず、礼は誰に対して行うものかを考えてみましょう。これには以下の3種類があります。
①神前・上座への礼
剣道や柔道の稽古場である武道場には、かつては神棚が置かれていました。由緒ある武道場には神棚が祭られていることがありますが、神棚が設置されていることは少なくなり、その代わりに日本国国旗が掲げられている武道場も多いかと思います。そこで、現在では「神前に」ではなく、「正面に」礼をします。
②先生(師)への礼
良い稽古をし、その成果を自分のものにするために、言われたことを真摯に聞く態度と、指導してくださる先生や先輩への尊敬と感謝の気持ちを込めて礼をします。
③相互の礼
剣道は格闘技のひとつであり、粗暴にならぬよう、一定の節度が要求されます。自分の気持ちを整えて、お互いに相手に尊敬と感謝の気持ちを込めて礼をします。
2.剣道では、どのように礼をするのか、細かく決まっているの?
剣道では、上記それぞれの礼のしかたは以下のように決まっています。うちふたつは立礼の作法、もうひとつは座礼の作法です。
①立礼:神前・上座および上席への礼
立った姿勢から上体を約30度傾けて行います。
この礼は神様や先生にあいさつするときのものですから、深々と頭を下げ、気持ちを平静に保ちながら感謝の気持ちを込めて行います。少しの間(一呼吸程度)その姿勢を保った後、静かにもとの姿勢に戻すようにします。
学校体育実技指導資料には、「自然体(どこにも無理のない安定感のある姿勢で永続性がある)の姿勢でおじぎをすることを「立礼」という。相手の目から視線をはずさずに,背すじを伸ばしたまま静かに上体を約30度倒し,一呼吸してから元の姿勢に戻す。」とあります。
② 立礼:相互の礼
試合や稽古の際に、お互いに行う礼で、正立した状態から15°程度と、比較的浅い前傾になります。目は相手から絶対にそらさず、礼をし終わるまでずっと相手を見続けます。
剣を持ち相手と向かい合っているときには、決して気を抜かないということを体現した礼のしかたとも言えます。
学校体育実技指導資料には、「試合や稽古の際、相互の立礼は上体を約15度前傾して目礼(相手の目に注目)を行う。」とあります。
立礼においては、首を曲げ過ぎたり,顎を上げたりしないよう自然体の姿勢を保ちながら行うようにすることが大事です。
なお、戦前は剣道の立礼には神前、師、互いの礼としておよそ45°、30°、15°の3種類の礼のしかたがあり、これを「三節の礼」と 言っていました。しかし、現在はかつて行っていた神前への45°の角度の礼はなくなり、30°の礼を「神前・上座および上席の礼」としています。
③座礼
正座の姿勢から上体を前に傾けながら同時に両手を「八の字」の形にして床につけ,その中心に鼻先を向け,静かに頭を下げる礼のことを、「座礼」と言います。 全日本剣道連盟の指導要領には、「正座の姿勢でおじぎをすることを「座礼」という。相手を正視し、上体を傾けつつ両手を同時に床につけて頭を静かに下げ る。一呼吸程度間を置いてから静かにもとの姿勢に戻る。」とあります。
座礼はもっとも丁寧な礼のしかたであり、稽古の中では、稽古を開始するときや終了するときに行います。十分に心を落ち着かせ、感謝の気持ちを込めて行います。
座礼のポイントは、
a.両手の親指と人差し指で三角形を作り、そこに鼻を入れるようなつもりで行う。
b.首すじを見せたり、腰を上げたりしないようにする。
の2点です。
両手の親指と人差し指で作る三角形は、実際に座礼のときに上から頭を押さえつけられたとしても、この三角形によって鼻を潰すことなく、息を続けられるようにするといった意味があると言われています。
首で礼をするのではなく、上半身ですることを覚えておきましょう。座礼時に更に首を前に倒すと、自分の襟首が相手に見えてしまい、更に、相手から完全に目を離してしまいます。
両手をつく位置が遠くになると、腰が上がります。この姿勢はとても見苦しいため、このような姿勢にならないよう、手は体を擦るように出していき、膝先から10cm程度をあけて、手をつくようにします。
さて、座礼の際の、手のつく順番というのが話題になることがあります。剣連の指導要領の通り、剣道の作法では両手を同時につくようにしています。
しかし 元々は、奇襲に即応出来るように(右手で直ぐに右に置いた刀が取れるように)、礼の前は先に左手をつき、右手はいつでも刀を取れるようにしながら後からつ くようにしていました。当然、手が必要以上に体から離れ、腰が浮くような隙のある姿勢はしません。また礼のあとは右手を先に元に戻すようにしていました。
今はこのような手の動作は行いませんが、元々どのような意味で、どうしていたかを覚えていた方が、美しい動きができると思います。