剣道用語集
[ひ]平常心
びょう-じょう-しん
驚懼疑惑(きょうくぎわく)の四病を排し、常に平静の心を持ち冷徹の精神を失わぬことが一番大事なことであり、それが正しい人の道であり最高の道徳であるという教えです。
禅の古典「臨済録」や「無門関」に登場する「平常心是道(びょうじょうしんこれどう)」という言葉に由来します。なお、読みは禅宗に倣い、ここでは「びょうじょうしん」としていますが、「へいじょうしん」でも間違いではありません。同じ禅宗でも曹洞宗では「へいぜいしん」となるようです。
[ひ]引き技
ひき-わざ
つば競り合い、体当たり、打突後のすれ違いなどから後退して打つ技です。
引き技には「引き面」、「引き小手」、「引き胴」があります。きちんとした足の踏み込みをもって後退し、打ち込むことが重要です。
[ひ]引き立て稽古
ひき-たて-げい-こ
指導的立場で稽古をするとき、相手にわからないように上手に打たせて下位者にうまく打てたことへの喜びを味わせたり、打突の機会を修得させたりするための稽古法です。
これを繰返し行うことで、下位者の技量が上がってきます。
[ひ]開き足
ひらき-あし
体を左右にかわす時に使われる足さばきです。右に動くときは右足を横に出し左足を引き寄せます。左に動くときは左足を横に出し右足を引き寄せます。常に相手の方を向くため、やや斜めに角度がつきます。
足だけではなく体全体でかわすことができるようにする必要があり、これができれば相手の攻撃をかわしたり、こちらから違う角度で攻めたりといったことができるようになります。
[ふ]不撓不屈
ふ-とう-ふ-くつ
強い意志をもって、どんな苦労や困難にもくじけないさまを言います。
「撓(とう)」は「たわむ」の意味で、重みなどに耐えかねて形が変わっていくさまを示しています。「屈」は曲がることを意味します。
「不撓」も「不屈」も、くじけないということです。
[ふ]踏み込み足
ふみ-こみ-あし
打突する際に用いられる足運びであり、左足の蹴りと右足の床面への踏み込み動作によって行います。
左足の親指付近で鋭く蹴って、右足を大きく踏み込み、左足を直ちに引き付け、体勢を崩さないように送り足で3~4歩まっすぐ前進します。右足は大きく上げることはせず、すり足で行うようにします。
[ほ]放心
ほう-しん
一般に使う「放心」とはぼうっとしている状態のことですが、剣道で使う「放心」は、相当に意味が異なります。
「心、何処にも留めず」という意味で、心を完全に解き放して、どこかにこだわったり留めたりすることなく自由にしておくことで、注意がすみずみまで行きわたり、どんな変化にも対応出来る状態のこと、しっかりと打ち込んでいける状態のことを指します。
[ほ]法界定印
ほっ-かい-じょう-いん
静坐(黙想)のときに組む手の形のことを指します。元は坐禅の際に手で組まれる印の形(仏陀の禅定印)です。武士の宗派として知られる曹洞宗では、坐禅の際に法界定印を組みますが、それが受け継がれ、剣道の静坐においても行われるようになったものと思われます。
丹田(へそのやや下あたり)に右手を置き、掌(てのひら)を上に向けます。その上に左手を掌を上にして重ね、右手で軽く包み込むようにします。手は全体的に丸みを帯びた形になります。両手の親指は手の上部で円を結ぶようにし、先端をかすかに合わせます。
[ほ]防具
ぼう-ぐ
面、小手、胴、垂の4点を一組とした、剣道の修練に必須となる、危険を防止したり打突部を保護したりするために身につける道具のことです。
剣道においては、正式名は「剣道具」と言います。
[ま]間合い
ま-あい
自分と相手の距離(時間的距離:タイミングと空間的距離)を言います。
格闘技や武道の世界では、間合いはもっとも大切なもののひとつです。相手の間合いで戦うということは、相手のペース・距離で戦うということになります。従い、自分の間合いを作ることが重要になります。
間合いには、一足一刀の間合い、横手の間合い、遠間(遠い間合い)、近間(近い間合い)というものがあります。
[み]三所よけ
み-ところ-よけ
別名「三所隠し」、「亀防御」、「びびり避け」とも言われます。面、右小手、右胴をいっぺんに隠し、相手の打突を防御する構えで、剣の理法にまったくそぐわず、忌み嫌われるよけ方です。
中学生や高校生を中心に一時期はやりましたが、これがために従来あまり1本としなかった逆胴や逆小手を1本とすることが多くなりました。
2008年以降、「三所避け」は時間を空費するような行為として試合で反則とするようになり、今ではこのようなよけ方をする剣士はだいぶ少なくなりました。
[み]峰
みね
刀の刃の反対側の稜線を指します。竹刀では、弦(つる)がある側を峰としており、中段に構えたとき、上に来るようにします。
試合では、峰(弦)の側で相手を打突しても、有効打突とはなりません。
[み]見取り稽古
み-とり-げい-こ
先生や先輩の試合や稽古を見学し、構えや間合い、打ち込み方、得意技の出し方などを研究して、良いところを自分の剣道に役立てていくようにする、いわゆる「イメージトレーニング」のことを言います。常にひとの試合や稽古をよく見てしっかり学ぶ姿勢を持つことが大事です。
[む]無念無想
む-ねん-む-そう
あらゆる雑念がなくなって心が澄み切っている状態のことです。
あれこれと考え、邪念が混じったりずるがしこい考えをしたりすれば、必ずそれが表に出てきて、体の動きや打突に影響を与えます。
心が透明になれば、相手の心が見えるようになりますし、自然と自分の体が動くようになり、よい打突につながるということを説いています。
[め]明鏡止水
めい-きょう-し-すい
「明鏡」は一点の曇りもない鏡のことで、「止水」は静かにたたえている水のことを指し、邪念がなく、静かに澄んだ心境のことを言います。
剣道においては、心に曇りがあったり、さざ波が立ち、ざわついていれば、相手の動きをとらえることはできません。従って、このような澄んだ心境で、静かに精神集中することが大事になります。
[め]目付
め-つけ
目の付けどころのことで、相手の目を見ながらも身体全体に意を配ることを指します。
相手から目をそらせれば、そこに隙ができます。従い、どのようなときも目付けを外さないことが大事です。
[め]面手拭い
めん-て-ぬぐい
面をつける際に、頭部につける手拭いです。これをつけることで、汗が頭部から流れてくるのを抑え、面が汗で汚れるのを防ぎます。
面手拭いの付け方が緩いと、稽古や試合の最中に額の側に落ちてきて、目をふさぐことがありますので、初心者は、しっかりとつける練習を繰返し行ってください。