剣道用語集
[せ]先
せん
相手の思惑までは察知できないが、打突してくる起こり頭をとらえたり、相手の技が功を奏する前に、抜いたりすり上げたりして勝ちを制するものです。出たら打つぞ、引いたら打つぞ、動いたら打つぞ、というような「打つぞ、突くぞ」という心持ちで、相手の機先を制していきます。
対の先とも言います。
[せ]先の先
せん-の-せん
お互いに先の気分で勝敗を争い、相手の起こりを早く発見して直ちに打ち込んで機先を制するものです。相手の先より先んずる「払い技」、「出ばな技」、「飛び込み技」などがあります。
懸りの先とも言います。
[せ]正眼の構え
せい-がん-の-かまえ
中段の構えの別名です。竹刀の剣先が相手の喉元のどもとに向く構えです。
流派によっていくつかの当て字があり、それぞれで微妙に構えたときの高さが違うようです。
正眼:剣先を相手ののど元に付ける。
晴眼:剣先を相手の目と目の間に付ける。
青眼:剣先を相手の左目に付ける。
星眼:剣先を相手の顔面の中心に付ける。
臍眼:剣先を相手の臍(へそ)に付ける。
[せ]静坐
せい-ざ
正座し、目を閉じて静かに自らの内面に深く沈思することを指します。黙想とも言います。
手は法界定印(ほっかいじょういん)を組みます。すなわち、丹田(へそのやや下あたり)に右手を置き、掌(てのひら)を上に向けます。その上に左手を、掌を上にして重ね、右手で軽く包み込むようにします。手は全体的に丸みを帯びた形になります。両手の親指は手の上部で円を結ぶようにし、先端をかすかに合わせます。
精神統一の観点から稽古の前後に行われます。
稽古を始めるときの黙想は、前回の稽古で注意されたことを思い出し、今日の目標、目的を心に刻む場で、稽古を終えるときの黙想は、今日の稽古の結果と反省の場です。それぞれ、心を落ち着かせ、思いを巡らせる時間と言うことができます。
[そ]相互の礼
そう-ご-の-れい
試合や稽古の際に、お互いに行う礼で、正立した状態から15°程度と、比較的浅い前傾になります。目は相手から絶対にそらさず、礼をし終わるまでずっと相手を見続けます。
剣を持ち相手と向かい合っているときには、決して気を抜かないということを体現した礼のしかたとも言えます。
学校体育実技指導資料には、「試合や稽古の際、相互の立礼は上体を約15度前傾して目礼(相手の目に注目)を行う。」とあります。
[そ]蹲踞
そん-きょ
本来は膝を折り曲げた敬礼のひとつで、相撲などでも行いますが、剣道では、やや右足を前にして、つま先立ちで両膝を左右に開いて 折り曲げ、上体を起こして腰を下ろした姿勢を指します。蹲踞から立ち上がった際に、自然と「剣道の構え」になるようにします。
気を充実させて相手と気を合わせ、自分と相手との間合や身構えを決定する準備姿勢であるとも言えます。
[た]丹田
たん-でん
下腹部の、臍(へそ)から握りこぶしひとつ程度下へ下がったところを指します。
丹田を意識して呼吸(腹部に圧力のかかる呼吸)をすることで、打突の瞬間をより的確に捉えることができ、健康にも良いと言われています。
[た]垂
たれ
胴の下の腰部分を防護するための防具です。他の防具と異なり、有効打突の部位はありません。相手の胴打ちが外れたときに、垂があることで、その衝撃を和らげます。
垂は3枚の大垂(おおだれ)と2枚の小垂(こだれ)から成り、大垂の中央部に名札(通称:垂ネーム)を付けます。
[た]垂ネーム
たれ-ねーむ
垂の中央の大垂に付ける名札の通称です。正式には「名札」と言い、全日本剣道連盟の試合細則等でも名札と記されています。
所属団体名と姓(同一団体に複数の同一姓の者がいる場合には、識別するための名前の一部文字)を記しておきます。
[た]太刀
たち
人などを断ち斬るのに用いる細長い刃のことを指します。
「断ち斬る」の「断ち」から転じたもので、古く用いられた直刀(ちょくとう)を「大刀」と表記し、平安時代以後の湾曲があるものを「太刀」と書きます。
剣道では、試合などでの最初の打突を「初太刀(しょだち)」と言います。また、日本剣道形でも「太刀の型7本」のように、長い木刀のことを太刀を言っています。
[た]帯刀
たい-とう
本来は刀を帯に差す、または刀を帯に差した状態を指します。竹刀や木刀を左腰に引きつけた状態で、鍔に左手の親指をかけ、さやから刀を抜く様のように構えます。柄頭(つかがしら)は体の中心線の位置にすることで、右手が柄(つか)を握りやすくします。
[た]打突の好機
だ-とつ-の-こう-き
打突をするのに良いタイミングのことで、昔から、3つの好機があると言われます。
北辰一刀流の創始者で「剣聖」と謳われた千葉周作成政が書き遺した「剣法秘訣」では、
① 相手の技の起こり頭
出頭、出ばなとも言い、相手が技を起こそうとする瞬間
② 相手が技を受け止めたところ
相手がこちらの打突を受け止めた瞬間
③ 相手の技が尽きたところ
相手の技が尽きて動作が中断し、体勢を整えようとする瞬間
の「三つの許さぬ所」を、打突の好機として上げています。
また同書では、この他にも「四つの許さぬ所」があるとしています。それらは
④相手が居着いたところ
相手の動きが鈍り、停滞した瞬間
⑤相手が退くところ
相手が攻めに屈したり体制を整えようとしたりして、退こうとした瞬間
⑥息を深く吸うところ
相手が呼吸を整えようと、息を深く吸う瞬間
⑦心の乱れたところ
驚懼疑惑が生じ、心が乱れた瞬間
です。基本的には「三つの許さぬ所」(上記①、②、③)が、逃してはいけない打突の好機です。
[ち]中段の構え
ちゅう-だん-の-かまえ
柄頭をへそのやや下、剣先を相手ののど元から目に向けて構えるもので、正眼の構え、人の構え、水の構えとも言います。
まず立位の姿勢から右足をやや前に出し、右足の踵(かかと)の位置に、握り拳一つ分くらい離して左足つま先を置くようにして正面を向くように構えます。次に左手で竹刀の柄頭(つかがしら)を握り、へそのやや下の位置にこぶし一つ分くらいの余裕を持って置き、右手は竹刀の鍔元(つばもと)を持ち、剣先の延長は相手ののど元に向くように竹刀を保持します。
攻撃にも防御にも適している、剣道の基本となる構えです。
[ち]近間
ちか-ま
近い間合いのことで、「一足一刀の間合い」よりも近い間合いになります。
自分の打ちが容易に届くかわりに、相手にとっても攻撃し易い間合いです。また、あまりに近い状態になると、元打ちになりますので、注意が必要です。
[つ]弦
つる
竹刀の峯に渡して、柄革(つかがわ)と先革(さきがわ)とをつなぐひものことです。「げん」とも言います。竹刀では、弦が張られている側を日本刀の「峰」の側に見立てています。
弦には竹刀がバラバラにならないようにする、大事な役目があります。弦が緩いと、打突の際に割竹が先革から外れることがあり、重大事故に結びつく可能性がありますので、緩くなったら必ず張り直します。
試合のときの竹刀チェックでは、弦が緩いと通りません。また、弦の色は最近さまざまなものが出てきていますが、以前は白、黄色、紫だけが認められた色になっていました。最近はその規定は撤廃されているようですが、あまり奇抜な色にしない方が無難かもしれません。
[つ]柄
つか
刀剣や竹刀を持つための手元部分を指します。
竹刀では、持つ部分が革(かわ)でできていますので、それを指して「柄革(つか-がわ)」と言います。
剣道具店で竹刀を作ってもらうときに、床柄(とこづか)、吟柄(ぎんづか)、W吟(だぶるぎん)といった柄の種類があり、前者から後者に向う方向で、高級になります。
[つ]突き
つき
有効打突部位のひとつで、のど元の部分への打突を指します。面防具の喉部にある「突き垂」を突くことで1本となります。
危険な技であるため、有効打突になるのは高校生以上と規定されています。
[つ]突き垂
つき-だれ
面防具ののど元に付いている縦に長い部分です。
「突き」から喉を保護する役目があり、特に強固に作られています。「突き」が突き垂を外れた場合を想定して、喉を守護する「用心垂」がその下にあります。