さ行
[さ]三殺法
さん-さっ-ぽう
剣道では竹刀(刀)を殺し、技(業)を殺し、気を殺すことを三殺法(3つのくじき)と言います。
「竹刀を殺す」というのは、相手の竹刀を左右に押さえ、あるいは捲き払いなどをして竹刀の自由な動作、即ち剣先を殺すことを指します。
「技を殺す」というのは、先を取って間断なく攻め立て、相手に攻撃の機会を与えず、技を出させないようにすることを指します。
「気を殺す」というのは、絶えず全身に気をみなぎらせて、先(せん)の気をもって向かい、相手の技の起こり頭を押さえる気位を示したり、間合いを上手に取って相手の気をそらし、相手のひるむところを、すかさず気位を保って攻め立てることを指します。
[さ]先革
さき-がわ
竹刀の剣先をまとめるためについている革のこと。これが付いていることによって、竹刀がばらばらになるのを防ぎ、また突き技のときに相手を傷つけないようにしています。
先革の長さが短いと、打突の際に竹刀がしなったとき、しなりによって生じた長さの差によって竹が外れることがありますので、一定以上の長さが必要とされています。大学/一般の試合規定では、50mm以上となっています。
また、先革が回るほどゆるい竹刀は、試合ではチェックに通りません。
[さ]左座右起
さ-ざ-う-き
剣道で行う、正座する場合の座り方と立ち方の作法のことで、座るときは左側から、立つときは右側から行うことを示した言葉です。
座るときには、左足を一歩後ろに引き、床に左膝→右膝の順に膝をつき、つま先を伸ばして座ります。立つときは、両膝を床につけたまま腰を上げてつま先を立て、右足→左足の順に立ち上がります。
[さ]座礼
ざ-れい
正座の姿勢から上体を前に傾けながら同時に両手を「八の字」の形にして床につけ,その中心に鼻先を向け,静かに頭を下げる礼のことを指します。
全日本剣道連盟の指導要領には、「正座の姿勢でおじぎをすることを「座礼」という。相手を正視し,上体を傾けつつ両手を同時に床につけて頭を静かに下げる。一呼吸程度間を置いてから静かにもとの姿勢に戻る。」とあります。
[さ]提刀
さげ-とう
立礼する時の姿勢で、弦(峰)を下にして自然に下げて親指に鍔をかけないようにしながら、腕を伸ばして竹刀、木刀を持った状態を指します。
試合や稽古開始の礼のあとの、帯刀(たいとう)する直前の身構えで、気持ちを落ち着かせる姿勢であり、終了の礼の前の、相手との間の緊張を解いた状態の姿勢です。
「下げ刀」、つまり手を下げることと勘違いされることが多いですが、正しくは手に提げるの意味で、「提刀」と書きます。
[さ]残心
ざん-しん
打突した後の、相手のどんな反撃にも直ちに対応できるような身構えと気構えのことを指します。打突後に 間合をとって、直ちに中段の構えとなり正対して相手の反撃に備えるような姿勢を取るか、適正な間合がとれない場合には、自分の竹刀の剣先を相手の中心(咽喉部) につけるようにして反撃に備える姿勢を取ります。
剣道試合・審判規則および細則では、残心のあることが有効打突の条件になっています。
[し]上段の構え
じょう-だん-の-かまえ
竹刀を頭上に保持した構えで、剣道の構えの中では最も攻撃的な構えです。火の構え、天の構えとも言います。
左手で柄頭(つかがしら)を握り、右手で鍔元(つばもと)を握 った状態で、左こぶしを額(ひたい)の高さまで上げ、額と左こぶしとの間に、こぶしひとつくらいの隙間を作ります。竹刀は45度後ろに傾きます。
左足を前に出した構えを諸手左上段の構え(左上段の構え)と言い、右足を前に出した構えを諸手右上段の構え(右上段の構え)と言います。正面から見ると、右上段はまっすぐに竹刀を上げますが、左上段は、やや右側に剣先が開きます。
左片手で竹刀を握り左足を前に出した左片手上段の構え、右片手で竹刀を握り右足を前に出した右片手上段の構えというのもあります。
[し]四戒
し-かい
四戒とは、驚・懼・疑・惑(きょうくぎわく)の四つを言い、剣道修錬中に、この中の一つでも心中に起こしてはならないという戒め(いましめ)のことです。
■驚(おどろく)
突然の出来事に心が乱れて正常な判断ができない状態です。
■懼(おそれる)
恐怖心が起き、攻めようにも退こうにも、体が動かない状態です。
■疑(うたがう)
相手が何をするのか疑心暗鬼になり、敏速な判断、動作ができない状態です。
■惑(まどう)
精神が混乱して、敏速な判断、軽快な動作ができない状態です。
剣道は、体力と技を練ることも大切ですが、精神的修養に努め、自分自身の心の持ち方を作ることが大切です。
[し]地稽古
じ-げい-こ
鍛錬を目的に行う総合的な稽古法です。自分の持つ技の限りを尽くし、相手に向うことで、技を練り、気を養い、欠点を矯正する工夫と努力をして、地力をつけていきます。もっとも試合に似た稽古法と言えます。
[し]守破離
しゅ-は-り
稽古や修行における段階を表す言葉で、独自の境地を拓く道筋を説いたものです。元々は600年ほど前に、猿楽師(現在の能)・世阿弥が「風姿花伝」のなかで展開した芸能論の一部ですが、剣道の修行の段階にも共通しているため、頻繁に使われる言葉になっています。
「守」とは師の教えを守り、技のかたちを覚えて、しっかりと身につけることを指します。
「破」とは、教えを守るだけではなく、技の細かい所を工夫して、自分に合うものを見つけ出していくことを指します。
「離」とは、師の下を離れ、自己の研究・研鑽の成果を集大成し、独自の境地を拓いていくことを指します。
[し]師なきは外道
し-なき-は-げ-どう
禅の教えでは、良師なきものは外道に落ち(道から外れ)、いつまでたっても本物にはならないと言われます。
剣道でも同じで、良い師について学ばなければ、邪剣(剣道に理念にそぐわない、人間形成としての剣道から外れたもの)や変剣(正しい動きから外れた、剣の理法に合わないもの)になる恐れがあります。
剣の道は「守破離」と言われるように、まずは良師について正しい剣道を学び、それを守るところから始めよという教えです。
[し]撞木足
しゅ-もく-あし
前足爪先は正面向き、後ろ足はそれとほぼ直角に横向きになる足の構えや、前後の足が共に開き、両足の成す確度が直角になっているような足の構えを指します。
撞木とは、鐘などを打ち鳴らすときに使うT字型の木槌(きづち)のようなもので、それに似た足の置き方なので撞木足と呼ばれるようになりました。
古武術ではこのような立ち方をするものが多くありますが、現代剣道においては、踏み込みが弱くなり、速やかな前進後退を妨げることから、良くない足構えとされています。
[し]止心
し-しん
あることにとらわれ、他のことに注意が行き届かなくなってしまう状態のことを指します。
たとえば相手から打たれまいと思えば、どのようにかわすかばかりを考えてしまい、先(せん)の気構えが失われるかもしれません。
相手のすべてを見るような「遠山の目付(えんざんのめつけ)」をし、「放心」つまり心を解き放ち、ひとつのことにとらわれないようにすることが大切です。
[し]称号
しょう-ごう
その人の剣道人としての完成度を示す呼称で、錬士(六段以上が取得可能)、教士(同七段以上)、範士(同八段)の3つがあります。
段位は剣道の技術的力量(精神的要素を含む)を示していますが、称号はこれに加えて指導力や、識見などを備えた剣道人としての完成度を示すものとして授与されます。
[し]竹刀
しない
剣道で用いる竹製の刀のことです。4本の割り竹を合わせ、剣先に先革(さきがわ)、手元に柄革(つかがわ)をはめ、弦(つる)と中結(なかゆい)で結んだものになります。
これに鍔(つば)および鍔止め(つばどめ)をつけて、稽古や試合で使います。 竹刀の長さと重さは全日本剣道連盟 剣道試合・審判規則第3条、細則2条で以下のように規定されています(小学生は参考値で、規定はありません)。なお、重量は鍔、鍔止めを抜いた値です。
性別 | 小学生 (参考値) |
中学生 |
高校生 |
大学・一般 | |
長さ | 男女 共通 |
111cm以下 (3尺6寸) |
114cm以下 (3尺7寸) |
117cm以下 (3尺8寸) |
120cm以下 (3尺9寸) |
重さ | 男性 | 370g以上 | 440g以上 | 480g以上 | 510g以上 |
女性 | 370g以上 | 400g以上 | 420g以上 | 440g以上 | |
先革の太さ | 男性 | 規定なし | 25mm以上 | 26mm以上 | 26mm以上 |
女性 | 規定なし | 24mm以上 | 25mm以上 | 25mm以上 |
竹刀の各名称は以下の通りです。
[し]自然体
し-ぜん-たい
剣道の構えで、どこにも無理のない自然で安定感のある姿勢を指します。上段、中段、下段の構えのときの基本姿勢で、基本的に相手に自然な形で正対します。左諸手上段や八相の構えは、左足を前に出すことで、やや右に向いた姿勢となりますが、これを左自然体と言います。
どのような身体の移動に対しても、また相手の動きに対しても敏速で正確に、かつ自由に対処できるような姿勢です。
[し]試合場
しあい-じょう
剣道の試合を行う、境界線を含み一辺を9メートルないし11メートルの、正方形また長方形の会場のことです。床は板張りが原則です。
全日本剣道連盟では、「コート」といった別のスポーツでの呼び方を慎むように指導しています。
[し]鎬
しのぎ
刃と峰との間に刀身を貫いて走る稜線の部分を指します。刃を下にして構えたとき、左側を表鎬、右側を裏鎬と言います。すり上げ技においては、鎬で相手の竹刀をすり上げ、相手竹刀の軌道をそらしていきます。
[す]すり上げ技
すり-あげ-わざ
相手が打ち込んできた竹刀を、表鎬(おもてしのぎ)または裏鎬(うらしのぎ)ですり上げ、相手の竹刀の方向や体勢の崩れたところを打ち込む技です。
相手の打ち込んできた竹刀を受けとめたり払うのではなく、相手の竹刀を自分の体のさばきと竹刀をすりあげる際の作用を利用してかわし、すかさず打ち込んでいきます。
すり上げ技には、「面すり上げ面」、「面すり上げ小手」、「面すり上げ胴」、「小手すり上げ小手」、「突きすり上げ面」、などがあります。
[す]すり足
すり-あし
床にするように足を動かす動作のこと。
剣道の基本の足さばきである歩み足、送り足、開き足、継ぎ足の4つは、すべてすり足で行います。打突の瞬間の「踏み込み足」においても、なるべく足を高く上げず、すり足気味に前に出て行くのが、素速い打突をする上での要点になります。
[す]素振り
す-ぶり
竹刀や木刀を持ち、上下、斜めなどに振る動作を足さばきとともに繰り返す練習法です。竹刀や木刀の操作や刃筋を知り、打突の基礎を体得するために行います。
腕の振り、足さばきともに、大きく正確に行うことが大切です。
[せ]先
せん
相手の思惑までは察知できないが、打突してくる起こり頭をとらえたり、相手の技が功を奏する前に、抜いたりすり上げたりして勝ちを制するものです。出たら打つぞ、引いたら打つぞ、動いたら打つぞ、というような「打つぞ、突くぞ」という心持ちで、相手の機先を制していきます。
対の先とも言います。
[せ]先の先
せん-の-せん
お互いに先の気分で勝敗を争い、相手の起こりを早く発見して直ちに打ち込んで機先を制するものです。相手の先より先んずる「払い技」、「出ばな技」、「飛び込み技」などがあります。
懸りの先とも言います。
[せ]正眼の構え
せい-がん-の-かまえ
中段の構えの別名です。竹刀の剣先が相手の喉元のどもとに向く構えです。
流派によっていくつかの当て字があり、それぞれで微妙に構えたときの高さが違うようです。
正眼:剣先を相手ののど元に付ける。
晴眼:剣先を相手の目と目の間に付ける。
青眼:剣先を相手の左目に付ける。
星眼:剣先を相手の顔面の中心に付ける。
臍眼:剣先を相手の臍(へそ)に付ける。
[せ]静坐
せい-ざ
正座し、目を閉じて静かに自らの内面に深く沈思することを指します。黙想とも言います。
手は法界定印(ほっかいじょういん)を組みます。すなわち、丹田(へそのやや下あたり)に右手を置き、掌(てのひら)を上に向けます。その上に左手を、掌を上にして重ね、右手で軽く包み込むようにします。手は全体的に丸みを帯びた形になります。両手の親指は手の上部で円を結ぶようにし、先端をかすかに合わせます。
精神統一の観点から稽古の前後に行われます。
稽古を始めるときの黙想は、前回の稽古で注意されたことを思い出し、今日の目標、目的を心に刻む場で、稽古を終えるときの黙想は、今日の稽古の結果と反省の場です。それぞれ、心を落ち着かせ、思いを巡らせる時間と言うことができます。
[そ]相互の礼
そう-ご-の-れい
試合や稽古の際に、お互いに行う礼で、正立した状態から15°程度と、比較的浅い前傾になります。目は相手から絶対にそらさず、礼をし終わるまでずっと相手を見続けます。
剣を持ち相手と向かい合っているときには、決して気を抜かないということを体現した礼のしかたとも言えます。
学校体育実技指導資料には、「試合や稽古の際、相互の立礼は上体を約15度前傾して目礼(相手の目に注目)を行う。」とあります。
[そ]蹲踞
そん-きょ
本来は膝を折り曲げた敬礼のひとつで、相撲などでも行いますが、剣道では、やや右足を前にして、つま先立ちで両膝を左右に開いて 折り曲げ、上体を起こして腰を下ろした姿勢を指します。蹲踞から立ち上がった際に、自然と「剣道の構え」になるようにします。
気を充実させて相手と気を合わせ、自分と相手との間合や身構えを決定する準備姿勢であるとも言えます。